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遺族の陳述①

 第一回口頭弁論での遺族Aさんの意見陳述をアップします。

以下

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仙台高等裁判所第2民事部御中

                                                          2021916

                                                                控訴人   猪狩●●●

 

                               控訴審意見陳述書

 

4年前の9月に夫は、連休を使って電車で家族に会いに来たことがありました。

 土浦駅まで迎えに行った時、助手席の窓から顔を出し、夫の姿を探す愛犬の後ろ姿があまりにも可愛くて、思わず写真に収めた事を思い出します。駅の階段を降って来た夫の姿を見つけるや否や、しっぽを振りまわし、耳を下げて喜んでいた姿を今でも忘れません。

 夫も1ヶ月ぶりに会う愛犬と、楽しそうに戯れていました。まだ昨日の事のようです。

 我が家にやって来た時から8ヶ月間、夫と暮らした愛犬にとって、夫は今でも一番大好きな人に違いありません。

夏が終わり、空が高く青く、一年で一番好きな季節が来ると、最後に会った日の夫を思い出し、辛くなります。

  今生きていれば61歳。仕事も辞めてのんびり暮らしていたのでしょうか。

 休みの日も早起きの夫は、きっと私や子供たちの車を常にいじっていたんだろうと思います。

 夫がいなくなってから、車のメンテナンスが、こんなに大変だったと知りました。

 いつも私の車を整備してくれた事に本当に感謝しています。

 そして、運転が上手になった子供達の車に乗るのは、何よりの楽しみだったでしょう。

 私は今、自身の仕事がコロナ禍で自粛されている為、看護師で忙しい娘にお弁当を作ったり、ご飯を作ったりする時間を持てています。何を作っても、これも夫に食べてもらいたかった、あれも食べてもらいたかった。そればかり考えます。本当に何でも美味しそうに食べてくれる人でした。その時の笑顔はやっぱり忘れられません。

 

なぜ私が仙台高等裁判所に控訴したのかを述べます。

 福島地裁いわき支部は、いわきオールと当時の役員の過労死責任を認めましたが、その一方で、救急医療体制について、東京電力と宇徳に過失が無く、安全衛生対策及び健康管理にも問題が無かったと判定しました。しかしこの判定は、事実に基づいておらず、間違っています。東京電力は作業員に配布した「傷病者発生の連絡カード」で、傷病者がでた時は事前にER室へ電話で通報するように指示していました。ところが201710月、夫に異常が生じた時、宇徳の整備工場に固定電話が無く、周りに居た人誰もが携帯電話を持っていませんでした。その結果、ER室へ電話をかけることができず、一刻が生と死を分ける心疾患の治療準備と治療開始が遅れたと言えます。「除染室到着後の治療に遅れはない」と言う判定は明らかに誤っています。携帯電話を持っていた責任者がなぜ一人も現場に居なかったのかも明らかになっていません。

  また、宇徳に安全衛生対策での責任が無いと言う判定も誤りです。宇徳は、夫が心疾患の基礎疾患を持っている事を十分知っていましたから、健康の確保に万全を期す義務がありました。宇徳の答弁書には、「労働者の健康の確保に万全をきすこと」に対し、これは「宇徳の雇用する労働者に対してのみの義務であり、下請け企業の労働者に対しては健康管理をしなければならない義務を負うことを根拠づけることはできない。」とありました。

 これが、原発廃炉作業を担う企業が発言する言葉とは思えません。

 そして夫が倒れた当日の状況説明を現場に居た全ての方から聞きたいと、当初から宇徳に求めておりますが未だ全員から説明されておらず、検証もされておりません。

  また、東京電力の答弁書において、「治療開始時間が数分程度早まったとしても、予後が確実に改善された可能性があるなどと言うことはできない」との、延命、生存の可能性を否定する発言は、万全の体制での治療を受けられた場合の発言であり、

 仮にも確実に数分の遅れがあった事実を無視して責任を認めず、転嫁しています。

 そして、コロナ禍だったとは言え、東京電力も宇徳も、証人尋問が誰一人もなされなかった事も、これまでの裁判を通して、納得の行かない所です。

  このように、私はいわき支部の判決が納得できず控訴しました。

 

 この夏も猛暑が続き、防護服と全面マスクで廃炉作業に従事されている作業員の方々が、被爆とコロナ感染と二重三重の闘いの中、汗だくで労働されている事を思うと、本当に頭が下がります。彼らが居てくれなければ、原発廃炉作業は進みませんし、国民の安全な暮らしも保障されません。

夫の無念を晴らしたい、作業員の命を守りたい、そう祈りながらここまで来ました。

 コロナ禍が感染爆発した時、私は母として「辛ければ看護師を辞めてもいいんだよ」と娘に言いました。しかし娘は「今私達がみんな辞めたら、患者さんはどうなるの?辞められない」と即答でした。夫の遺伝子をしかっり受け継いた、芯の強い娘を誇らしく思います。

原子力発電所と言う極めて危険で特殊な労働環境下で、賃金を搾取され、命まで脅かされるような事は、絶対にあってはならない事です。作業員が心身共に安全に労働出来るように改善して欲しいと願います。

 そして、当たり前ですが、命をかけて働く国民を守れる国にして下さい。作業員の命を軽視しないで下さい。

 特権階級の人間であれ、上級国民であれ、作業員であれ、命の重さは皆平等なはずです。

 大企業の意見は嘘でも通すのに、庶民がこれだけの時間を費やし調べた事実を無視しないで下さい。夫が生きていて真実を話す事が出来たら、隠蔽は出来なかった筈です。

 真実が白日の元に晒される事を願います。

仙台高等裁判所におかれましては、事実に即した公正な判決を下していただきたく、

切にお願い申し上げます。

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