9月16日、仙台高裁において第一回目の口頭弁論が開かれました。
すでに複数の方が、facebook等に報告記事を書いてくださっているので若干色あせた報告にはなってしまいますが、タイトルにあるように驚きの口頭弁論の場となりました。長文ですが、当日の雰囲気を知って頂きたいので、なるべく裁判長の発言はメモを起こしたものを載せます。
朝10時すぎより、高裁前の公園に集まり、マイクと横断幕・プラカードをもってアピール行動を行ないました。東京から全国一般労組全国協議会の平賀委員長や、追及する会の共同代表である飯田さん(東京労働安全衛生センター事務局長)たちも駆けつけてくれ、アピールに力が入ります。福島からも狩野共同代表と双葉原発反対同盟の石丸さん、いわき自由労組、福島連帯ユニオン、ひだんれんの仲間も駆けつけてくれました。地元の宮城からも全労協や宮城合同労組の仲間たち10名近くが駆けつけてくれ20名以上の参加でアピール行動に臨むことができました。
11時から大法廷での弁論が始まります。
まずは、原告・控訴人である遺族のお二人(猪狩忠昭さんのお連れ合い、息子さん)が意見陳述を行います。
おふたりは、「事前に連絡がなかったので慌てた」とER(救急医療室)の医師(当時)が証言したことや、東電が配布した「連絡カード」にERの電話番号が書かれているのに誰も携帯電話を持っていなかったことを述べ、「作業員の命を軽視しないで下さい」と原発労働者の環境改善を訴えました。
さて、ここからが驚きの展開でした。
小林久起裁判長は地裁判決に触れながら「いわきオールの責任が明らか。その職場を提供していたのが東電と宇徳」と前置きをして、全員に語りかけるように話はじめました。
ERの医師がカルテに『ドアが叩かれ(連絡なし)』と記載していること、猪狩さんが『数日前から胸が苦しいと言っていた』と書かれていることも「同僚は知っていた。そうでないと医師はカルテに書く事ができない」と述べました。
猪狩さんが過去に手術を受けた病院の医師の意見書を示し、「外来診察時、主治医のカルテのなかで『仕事がかなり忙しい。胸が痛むことがある。』とある。主治医でも仕事がかなり忙しいことを知っている」と指摘。
東電・宇徳が提出した「死亡当日の経緯」を示しながら「『13:03 作業員らが除染室に連絡し、ERの職員が物音に気付く』と書いてある。」「物音に気付いて、緊急事態だと気付いた。これが現代の最先端の原発の救急のあり方なのか、と普通の人は疑問に思わないだろうか。『物音に気付く』とはいったい何なのか」。
ER職員であったM氏(地裁で証言予定であったが直前に取り消しとなった)の陳述書を示しながら、「『突然、除染室とER扉が叩かれる大きな音がした。』『男性が慌てた様子で身振り手振りで…傷病者発生に気付きました』。これが救急、緊急事態を伝える方法だった。こんなことが現代社会にあるのか。それでいいのか。そんなことがあるのか。」
ここまで来ると、傍聴席の私(報告者)たちも身を乗り出す。メモを取る手が震えてきます。東電・宇徳の弁護士の方を見ると、彼らは身じろぎもせずただずっと机の一点を見つめるかメモを取りるかで下を向きながら、裁判長の発言を聞いている。
続いて裁判長は航空写真の整備工場とERの位置関係を示し、「相当の距離がある。そこに電話がなかった。これだけの距離のある事業所で」。
そして別の裁判で「帰還困難区域に防護服を着て、6月の暑いなか、現場に行きました。同僚の裁判官で全面マスクを着けた人は汗だくでした。」と自身の体験まで語り、「そういう労働環境で業務されているなかで、この緊急医療体制をどう評価するのか」。
ERの扉の写真を示して「なんて書いてあるか『入室後、内扉を叩いて医療班を呼んでください』と書いてある」。「扉を叩いて身振り手振が当然のように書いてある。そういう体制が出来てある」。
再びER職員M氏の陳述に触れ(事前の連絡がなかったので準備に)「『2~3分を要す』。東電の準備書面でもそのことは争っていない。『2~3分の時間短縮になったかもしれない』と認めている。救急医療の2~3分の遅れが、遺族の立場からは『仕方がない』と納得できないのではないか。」
イチエフのガイドラインにも触れて「ガイドラインでも日常的な健康管理について書かれている」。「電話一本なかった、そういう職場で過重な労務に従事した、ということをどう判断するのか」。忠昭さんの健康状態も「同僚や、まわりの医師は気がついていた。組織として気付かなかったのか」。
「職場での重大な事故を未然に防げなかったことを受け止めてくれないか、と和解を相談させて欲しい」と最後に述べ、弁論の終了と判決時期を決めないで和解の勧告を行ないました。
裁判長の発言は時間にして20分以上あったのではないかと思います。「今言ったことを、判決に書いてくれよ!」思わず仲間がつぶやきました。
報告集会では「こんな裁判初めてだ。」「判決が出るのかと思った。」「何を喋りだすのかと思ったらびっくりした」「原発で働いている人を守るために喋ったのかもしれない」。と驚きの感想が溢れました。
霜越弁護士は「宇徳と東電を裁判官が説得していたようだ。ER体制の充実や環境改善についての文言をいれた和解案が示されるかもしれない。環境改善についての何らかの進捗があれば、和解の話し合いに応じることもできる」と今後の展望を話されました。
齊藤弁護士からは「東電が管理する職場で過労死という重大な事件が起き、これを防げなかったのかということが問われ、そのことを出発点にしている。しかも裁判官自体が帰還困難区域に入り、同僚が全面マスクを着けたり、その過酷さも理解している。法的にはなかなか厳しいが、遺族の感情に配慮できないのかと投げかけている」。「東電・宇徳が裁判所の言いなりになるとも思わないが、現場環境の改善ができるように努力していきたい」。そして「東電と宇徳に『和解しないと大変だ』と思わせる環境も作らないといけない」という決意とあらためて法廷内外での闘いの重要さを訴えられました。
裁判の途中から涙を流していた遺族のAさんからは「裁判長があんな発言をするとは思いませんでした。ひとりの人の死が大変なこと、許されないこと、ということをやっと言ってくれて胸のつかえが取れた気がします。宇徳と東電がどういう応えをしてくるか、まだ和解するかどうかは決めていませんが、ここまでこれて良かった。みなさんのおかげです。」とここでも涙を流しながらの発言がありました。
前夜は一睡もできなかったというご長男Kさんも「自分の想いをぶつけたいと思っていました。裁判長には想いが届いたのではないかと思います。でもまだ終わったわけじゃありません。裁判長の話を聞いている時にずっと父の事を思い出していました。」と発言されました。
次回は10月29日に仙台高裁で和解に向けた協議が始まります(非公開)。
もちろん弁護団や遺族が語ったように、和解ありきというわけでもありません。東電や宇徳が和解拒否や和解のハードルをあげてくることも十分に考えられます。
引き続き法廷内外での闘いが重要であることは言うまでもありません。皆様にさらなる支援と注目を訴えます。(M)
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