5月19日、仙台高裁で判決がありました。残念ながら判決内容は控訴棄却。救急医療体制の不備について東京電力・宇徳の責任を認めない不当な判決でした。イチエフ構内の救急医療体制の責任はどこにあるのか、誰にあるのか。誰が労働者の健康と命を守るのか。私たちはこれからもその事を問い続けていく。
しかし、この判決によって東電と宇徳が免罪されたということでもありません。
判決は、「忠昭の異常に気がついた時点で救急医療室に事前連絡が入っていれば、救急医療室において防護服の着用など放射線のスクリーニング検査の準備をし、救急医療室に迅速に急病人を受け入れて直ちに救急処置を施す準備をすることができたはずであって、そうすれば忠昭が午後1時10分より数分前に救急医療室で医師の治療をうけることができたといえる。」と指摘し、事前連絡がなかったために治療開始に数分の遅れが生じたことを認めました。
さらに「作業グループ内に1つでも緊急連絡用の携帯電話が配布され、急病人が発生した場合には速やかに救急医療室に電話連絡する必要があることが作業員に周知され、数分でも早く治療を受けることができたならば忠昭を助けることができたのではないかと悔やまれる気持ちになるのは、実際に忠昭の命を助けられたかは必ずしも明らかでないとしても、その気持ちが理解できないわけではない。」と忠昭さん死亡当時の救急医療体制に疑問の声と遺族の心情に理解を示しました。
それだけではありません。
忠昭さんが働いていた整備工場には固定電話が設置されておらず、「…忠昭を救急医療室に搬送した作業員は誰一人として携帯電話を持たず、搬送中に事前連絡をしようにもできなかった。また、救急医療室に入室するには、除染室に入った後、救急医療室に通じる内扉を叩いて内部の職員を呼ぶように掲示されているにすぎず、忠昭が搬送された際にはすぐに内部の職員が気づいたとはいえ、1Fという最先端の技術を扱う事業所であれば、インターフォンを設置するなど、もっと迅速かつ確実に急病人の症状を伝えられる設備も十分に考えるべきであったといえる。」、「…放射線被曝のリスク管理も含む各種の安全対策を担うことができるのは原子力発電所を設置、運営してきた被控訴人東電以外にはなく、被控訴人東電の第一義的な責任の下で、元請事業者、関係請負人と連携し、労働安全衛生水準の向上に努めなくてはならない。」、「控訴人らが指摘するとおり、1Fで作業に従事する作業員全員に携帯電話を貸与するか、少なくとも作業グループごとに1台携帯電話を貸与し、急病人が発生するなど緊急事態が発生した場合には救急医療室に事前連絡ができるようにするとともに、それを作業員に周知させ、急病人や事故が発生した際に速やかに救急医療が受けられる体制が維持、整備されることが望ましい。」、等々と具体的な例まで出してイチエフ構内の緊急医療体制の不備とその改善の必要性を何度も何度も指摘しました。
この指摘は遺族・弁護団が主張してきたことでもあり、その改善は遺族が一貫して願ってきたことです。
しかし、そう何度も指摘しながらも、厚生労働省のガイドラインは「1F構内の緊急医療体制の構築につき、重症の傷病者に対する救急処置が直ちに実施できるように求めるものの、講ずべき措置の具体的な内容は、救急医療室の医療関連職種の配置、救急処置のための医療資材・設備の確保、他の医療機関への搬送時間の短縮のための救急搬送体制の強化を求めるもので、救急医療室において診察するまでの放射線スクリーニング等の時間の短縮が具体的に求められてはいなかった。」。宇徳についても「ガイドラインにいう元方事業者として作業にあたる労働者の安全に配慮すべき一定の責務がありながら整備工場内から救急医療室に電話できる環境を構築していなかったことは事実であるが…ガイドラインでも1Fにおける緊急医療体制の整備の第一義的な責任は被控訴人東電であることが明記されている…速やかに救急医療室で適切な治療を受ける忠昭の期待権を侵害した過失があったとまで評価するのは、やはり相当でない。」とされてしまいました。
そして「1F構内で忠昭が過労による労働災害により死亡する事態を回避することができなかったことは誠に遺憾なことであって、被控訴人東電のみならず、元方事業者である被控訴人宇徳においても真摯に受け止め、救急医療室に事前に電話連絡ができ一刻も早く救急医療を受けれたら死亡という結果を避けられたのではないかという悔いが残るような事態を再び繰り返すことがないよう、厳しい環境の中で1Fにおける廃炉作業に従事する多くの労働者の健康と安全のために、速やかに救急医療が受け入れられる体制を整備し、改めて関係請負人や労働者に周知すべきであるが」というとても重要な前置きをしつつも、「当時において控訴人らが主張するような対応をとるように要求することは、被控訴人東電が1Fの廃炉作業と作業に従事する労働者の安全のために有する重大な責任を踏まえて検討しても、なお相当とは認められず、被控訴人東電に、緊急医療体制の構築にあたり速やかに救急医療を受けられるようにするために必要な措置を講じなかった注意義務違反ないし結果回避義務違反の過失があったとまでは、認められない。」という結論を出されてしまいました。
判決文中のいたるところに、忠昭さん死亡当時の緊急医療体制の不備およびその整備が指摘され、遺族と弁護団が指摘してきたことがほぼ認められているにも関わらず、結論は東電・宇徳の責任を認めないという奇妙で不当な判決文です。
裁判官たちも、自身が書いた判決が現実社会と乖離した「奇妙な判決」であることを十分に理解しているでしょう。遺族の心情を理解しつつ、また救急医療体制の不備と改善の必要性を何度も指摘しつつも「ガイドラインに具体的に求められていない」という理由で控訴を棄却する。遺族たちは闘いは、あと一歩のところまで迫りつつも「司法の壁」に拒まれたと言えます。
しかし、遺族たちは福島地裁での「悔しい勝利判決」を、仙台高裁において、もうあと一歩のところまで押し戻したとも言えるのです。
それはまぎれもなく、闘いの成果なのです。多くの皆さんに支えられ、支援者・弁護団と何度も議論を繰り返し、東電への申し入れなど法廷外の闘いを法廷内と結合させ、和解交渉においても譲れない線をはっきりと打ち出し、そしてわずか2週間で3,502筆の署名提出などによってなし得たものです。
もうあと一歩。力及ばずでしたが、問題はより鮮明なものとなりました。厚労省のガイドラインが不十分であること。同時に裁判官が判決文中に何度も指摘したようにイチエフでの緊急医療体制が不十分であり、改善の必要があることです。遺族はその事を問い続けるでしょう。私たちも新たな闘いを開始しなければなりません。
報告集会で遺族のAさんはこう語られました。「皆さんとこれまでの長い道のりを共に闘ってきたことは私の誇りです。原発で苦しむ人をこれ以上出してはなりません。」
私たちはこれからも遺族とともに闘う!!
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