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控訴審陳述書 Aさん

  Aさん(猪狩忠昭さんのお連れ合い)の控訴陳述書です。

 以前に載せた第一回口頭弁論での陳述に先立って提出したものです。時系列が前後しますが、裁判の争点が分かりやすくなると思いますので順にアップして行きます。





仙台高等裁判所 民事部御中

          2021年5月20日

            控訴人  猪狩●●●

 

   控訴審陳述書

 

1 東京電力が財政上の理由で携帯電話を配布できないと言いながら、実際には全作業員に配布したことについて

東電は福島地裁いわき支部における裁判で、財政負担の増加を理由に作業員へ緊急時用の携帯電話を配布しないことを正当化していました。

これに対して私は本人尋問で、夫が過労死した半年後の平成30年4月には、1Fで稼働する全作業員に携帯電話を貸与している報道が、インターネット上で行われている事実を証言しました。さらに、長男も10分間の短い尋問時間をさいて、この事実について証言しました。

東電が言う財政上の理由が言い訳に過ぎないことを私たちの証言で明らかにしたつもりでした。ところが判決文は、「作業員に対して、携帯電話等の通信機器を支給するのは、相当な維持費の支出や管理が必要となる」として、東京電力が福島第一原発で働く作業員に対して緊急連絡用の携帯電話を配布しなかった言い訳をそっくり認めました。これは明らかに事実に反した認定です。

 

2 サーベイ準備が一般的な時間よりも2~3分多くかかり、その結果治療も遅れたことについて

判決文は、「亡忠昭が除染室に到着してからの処置に特に遅れがあったとはいえず、・・・」としていますが、実際は処置に遅れが生じています。

証人尋問予定であったM氏の陳述書に、「サーベイ実施自体にかかる時間は10秒から数十秒程度」、「サーベイ員が傷病者の発生の連絡を受けてから除染室に入るまでには一般的に約2、3分を要する」と書いてあります。

サーベイ員が連絡を受けてから除染室に入室するまで2,3分程度であることを考えると、13時03分に森氏から連絡を受けたサーベイ員は13時05分から13時06分に除染室に入室可能であり、その後サーベイを行っても、少なくとも夫は、13時07分から13時08分には救急医療室に入室できるはずです。しかし、サーベイ員が除染室に入室したのは、「サーベイ員に電話をかけてから数分後」であり、実際に夫がER室に入室し、治療が開始されたのは13時10分のことでした。つまり、森氏の言う一般的な時間よりサーベイ準備が2~3分多くかかり、その結果として、治療も2~3分遅れたのが事実です。

 したがって「遅れがなかった」とする判決文は誤っています。

 

3 架電できた場合には、5~7分早く治療が受けられたことについて

夫が倒れた12時55分直後にER室に架電することが可能であった場合には、ER室がサーベイの準備を指示し、サーベイ員が準備に入り、夫が除染室に到着した13時03分にはサーベイ実施の体制が整っていたはずです。到着後すぐにサーベイを受け、13時03分直後、遅くとも1時04~05分には救急医療室に入室が可能であったはずです。東電と宇徳が、傷病者発生の際に、架電が可能な体制を構築していれば、実際よりも5~7分早く治療を開始することが可能であったと言えます。

以下図表で示します。網掛け文字は架電出来た場合です。(※Blog管理者注)



 4 架電できた場合、救急車で搬送された可能性があることについて

さらに言えることは、架電が可能な状況であれば、救急車が夫が倒れた現場まで向かい、更に早く治療が開始された可能性も否定できません。

 

サーベイの準備が一般的時間で終了できれば、「傷病者発生の連絡カード」の通りにER室に架電できれば、治療が早まり夫は延命できていたかもしれません。

私は、東電の責任を明らかにした判決を高等裁判所に求めます。

 

5 宇徳にも救急医療体制を構築する義務があったことについて

「東京第一原子力発電所における安全衛生管理対策のためのガイドライン」を読むと、「東京電力の第一義的な責任のもとに、発電所、元方事業者及び請負人・・・がともに実施し、その結果を踏まえた労働災害防止対策を計画的に実施する必要がある」と記載してあります。

 一義的には東電に安全衛生管理体制の構築する義務があったとしても、元方事業者である宇徳も、東電とともに、労働災害防止対策を計画的に実施する立場にあったはずです。安全衛生管理体制に不備があった場合、責任が全くないかのように述べる判決は誤っています。

またガイドラインには、「発電所長及び元方事業者は、・・・心疾患、脳血管疾患等の基礎疾患が判明した者に対しては、日常的な体調の確認を徹底するとともに、保険指導の実施等により、健康の確保に万全を期すこと。」との記載があります。その一環として、宇徳は、整備工場内で心臓手術の後の夫の体調が急変した場合に備え、東電と協議し、固定電話を備え付けることや子会社だけではなく全作業員に携帯電話を貸与する等、救急医療室への連絡手段を構築する義務があったと言えます。

しかし、宇徳は、救急医療室への連絡手段を構築することは一切ありませんでした。

私は宇徳の責任を明らかにした判決を高等裁判所に求めます。

                             以上


※Blogでは東電の証人尋問予定者をM氏としましたが、陳述書の本文ではイニシャルでなく本名が記載されています。また図についても編集の都合一部加工しました。※





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