仙台高裁での控訴審は第一回口頭弁論(2021年9月16日)で結審が言い渡されると同時に、裁判長によって「強く和解」が勧められ、和解協議が行われていました。
和解協議中は、当ブログでも経過を報告することができませんでしたが、遺族は協議で示された和解案に納得ができず、控訴の原点に立ち返って判決を求めるることになりました。
遺族はどんな思いで判決を求めて行く決意を固めたのか。公正な判決を求めるためにも控訴で明らかにした証拠などを順に公開していきます。
■忠昭さん死亡のわずか半年後に東電は労働者へのスマホ配備を行っていた。
遺族と弁護団は、イチエフ構内の救急医療体制が不十分であったことを訴えてきました。
東京電力は忠昭さん死亡当時、イチエフ全労働者に「傷病者発生の連絡カード」を配布し、傷病者発生時に救急医療室(ER)に架電するよう指導を行っていました。しかし、忠昭さんが倒れた時に、その場に携帯電話を持っている労働者は一人もいませんでした。そのため忠昭さんがERに運び込まれた際には、サーベイ(身体汚染の測定)準備やER職員の防護服着用などに時間を要し、治療が遅れてしまいました。心停止から救急蘇生開始まで1分毎に救命率は7%~10%減少すると言われています。ERへの電話連絡が行われていれば、忠昭さんの治療は少なくとも数分以上早く開始されたのです。(架電があれば「2~3分の時間短縮」になったこと、忠昭さんが作業していた車両整備工場には電話が設置されていなかったとも東京電力と宇徳は認めています。)
緊急時の架電を指導していても、電話がなければ架電はできません。救急医療体制が不十分であったことは明らかです。
ところが地裁判決では、忠昭さん死亡当時「1Fで勤務する作業員は私用の携帯電話を携帯することが禁止されていなかった」「作業員全員に携帯電話を支給するためには、相当な維持費の支出及び管理が必要になる」として東電への賠償責任を否定されました。
控訴審において遺族・弁護団はあらためて、被控訴人・東京電力は「傷病者が発生した際に、架電を受けずとも救急医療室に直ちに入室できるような仕組みを構築し、あるいは、作業員に通信機器を貸与することで、傷病者発生の際に、救急医療室へ架電できる体制を構築義務があったがそれを怠った。」と主張しました。
また被控訴人・宇徳には「整備工場内から救急医療室に架電できる環境を構築すべき義務があったがそれを怠った」と主張しました。
同時に弁護団は、忠昭さん死亡からわずか半年後の2018年4月に東電がイチエフで働く全労働者にスマホを配備したことを明らかにしました。「作業員全員に携帯電話を支給するためには、相当な維持費の支出及び管理が必要になる」として東電への賠償責任を否定した地裁判決の誤りを指摘したのです。
忠昭さん死亡当時においても、全労働者への携帯の貸与は可能であったし、少なくとも作業グループに1台は携帯電話を持たせることなどして救急医療室への架電できる体制は構築できたのです。
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福島民報記事 2018年4月8日 |
この反論は無理があるのではないでしょうか。GPSでの位置特定と避難指示を出すことが目的であっても、東電が認めるようにその端末を救急医療の連絡に使用することは可能です。スマホですから。
また、「4000ないし6000人の作業員が関わる廃炉作業において、全作業員に導入するシステムとなると、端末の仕様・台数や配置、貸出・返却の運用等、膨大な検討事項が発生する。その検討に多くの時間を要した結果、平成30年4月から本システムの導入・実施の運びとなったものである。」という反論も行っています。
繰り返しになりますが、遺族と弁護団は「イチエフ労働者全員に携帯電話を持たせるべきであった」などと主張したことはありません。控訴理由書の中でも「作業員のグループに付き、少なくとも1台は携帯電話を貸与する等、傷病者が発生した際に救急医療体制に架電できる体制を構築する義務があった。」と主張しています。そして、その体制が構築可能であったことは全労協の申し入れでも明らかになっています。(全労協の申し入れについては別稿で詳しく書きます。)
仙台高裁は以上の事実から目を背けずに公正な判決を下すべきです。
(M)
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