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闘いは高裁へ!!4月12日、仙台高裁に控訴!

 「記者会見での発言は私が我慢すればいいだけです。でも救急医療体制の問題は今も働いている人に関わることですから」。判決後、控訴について原告・遺族と弁護団、追及する会事務局らで議論をしたなかでの原告Aさん(猪狩忠昭さんのお連れ合い)の言葉です。

 損害賠償請求裁判は3つの事案で構成されていました。

 ①長時間労働を放置し、猪狩忠昭さんを死に至らしめた責任を問う―被告:いわきオール・宇徳

 ②忠昭さんが倒れた時に、携帯電話を持っている人間がいなく整備工場内にも電話がなかったため救命措置が遅れた。救急医療体制の不備を問う―被告:東京電力・宇徳

 ③忠昭さん死亡時の記者会見で「作業との因果関係はない」などと遺族を傷つける発言を繰り返した―被告:東京電力

 わかりやすく言えば、以上の3つの事案を同時に裁判で争うという構成でした。

 このうち、①についてはいわきオールと当時の社長夫妻に合計2500万円の支払いを命じる判決が下りました。イチエフまでの移動時間やミーティングなどの時間を労働時間として認め、会社と当時の社長夫妻の安全配慮義務違反を認定しました。勝利判決と言える内容でしたが、元請け企業・宇徳の責任は認められませんでした。

②と③については、いずれも原告(遺族)の主張が認められず棄却となりました。

 しかし、遺族は決意を新たにして東電と宇徳の救急医療体制の不備と不法行為責任の認定を求めて4月12日に仙台高裁に控訴しました。

 諸事情があり今後の闘いについての報告が、会員のみの限定した形になっていました。闘いは仙台高裁へと移ります。引き続き皆さまの支援を訴えます。

 以下に追及する会の事務局声明をアップします。


      福一原発,過労死責任追及裁判;3/30判決と今後の闘い

 

2021年4月18日

福島第一原発,過労死責任を追及する会 事務局

 

いわきオールと前社長夫妻の過労死責任認め、2,500万円の支払いを命じる!

本年3月30日、福島地裁いわき支部は、被告いわきオールと前社長夫婦の3者が連帯して、原告(忠昭さんの妻、長男、長女)3名に対し合計約2,500万円を支払うように命じました。判決は、「夫妻が会社そのもので、忠昭さんを指揮命令していた」という原告側の主張を認め、「夫妻が安全配慮義務を遵守する体制を整備すべき義務を悪意又は重過失により懈怠し、忠昭に過重な業務に従事させ、致死性不整脈により死亡するに至った」として、会社法429条に基づく損害賠償責任を課しました。

 

忠昭さんの同僚の証言記録を重視し、過労死ラインを超える長時間労働を認定する!

裁判所は、忠昭さんと一緒に週6日間、朝4時半から夜7時頃まで一緒に仕事をしていた忠昭さんの同僚が未払い賃金裁判で行なった証言記録を重視しました。忠昭さんが亡くなられて、自身で事実を語ることができなくなったことが原告側立証の困難性でした。しかし福島第一原発といわきオールの事業所で長時間、過酷な労働を共にした同僚が忠昭さんと遺族のために、外圧に負けずに事実を未払賃金裁判で述べ、その証言記録がこの度の安全配慮義務を問う裁判では最重要証拠として取り扱われました。 

裁判所は、少しの矛盾もない同僚の証言記録をもとに、死亡前6ヶ月間の各月平均の時間外労働が、過労死ライン80時間を超えて100時間近くあったと認定しました。細かく見ると、一日の労働時間は、労基署が行った認定時間を上回るものでした。 

特に、途中コンビニへ立ち寄った時間を含めて、毎朝の現場までの移動過程が、使用者の指揮命令が及んだ労働時間であると認められたことは、第一原発廃炉作業や中間貯蔵施設、除染作業に止まらず建設・土木や警備業など、長時間の移動を前提とする労働者の労働時間の認定、権利拡大の道をまたひとつ切り開いたといえます。 

 

いわきオール側の行った主張;「肺塞栓による突然死」をきっぱり退ける!

被告いわきオール側は、忠昭さんの死亡原因について、原告側が主張する「過労による致死性不整脈」ではなく、「肺血栓塞栓症(肺塞栓)による突然死である」と主張してきました。肺塞栓による死亡は致死性不整脈や心筋梗塞による死亡と違って労災認定の対象になりません。つまり、いわきオール側が、忠昭さんは労災死でも過労死でもないと主張したのです。

労基署の労災認定の際に認められた病名が裁判で認められず労災が否定され、敗訴になる場合もあります。私たちはいわきオール側から肺塞栓の主張が出た時、5~6年の長期戦、消耗戦になるかもしれないと危惧しました。弁護団の方針は、長期の医学論争にさせないために、すべての反論証拠を一気に押し出すということでした。これを受けて遺族が忠昭さんの死亡診断をした医師と面会のため遠く盛岡に出向いて、いわきオール側の言い分を否定する意見書を書いていただくこととなりました。面会に応じた医師が遺族の熱い気持ちに応えて、死亡原因が致死性不整脈であるという事実を補充する医学上の意見書を書いてくださいました。裁判所は医師の意見書と忠昭さんが肺塞栓の危険因子を有していなかった点を重視して、被告いわきオール側の「肺塞栓による突然死である」という主張を完全に排除しました。遺族の行動が肺塞栓の主張を退けました。

 

いわきオールと前社長夫妻が遺族に謝罪し、慰謝料の支払いを約す!

いわきオールという会社だけではなく、前社長夫妻の安全配慮義務違反を認め、損害賠償責任を認めたことは、勝利判決と言えます。判決を受けてこのたび、いわきオールと夫妻が遺族に謝罪し、夫妻が故忠昭さんと遺族に対する慰謝料の支払いを約す内容の書面を交付しました!謝罪は、3年半の間、遺族が全国の支援者とともに責任の追及行動を続けていたからこそ実現したものと確信します。皆様方による裁判への傍聴支援、抗議申し入れ、街頭チラシ情宣、団体交渉での追及に感謝申し上げます。

 

元請・宇徳の安全配慮義務違反を認めない判決!

 しかしながら、裁判所は毎朝5時半までの納品を命じた元請・宇徳の安全配慮義務違反については、「宇徳が忠昭さんを指揮命令していたとはいえない」として退けました。元請け会社が下請会社の従業員に対して、具体的でかつ厳守を求める指示等を行っていない限り(特別な社会的接触に入っていない限り)元請けの安全配慮義務違反を認めないというのが裁判所の一貫した立場です。

労働安全衛生法(元方事業者の講ずべき措置等)29条には「 元方事業者は、関係請負人又は関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行なわなければならない。」と記載されています。しかしこの条項は元請けに対する罰則無しの努力義務を要求するに止まっています。

 

多重請負を隠れ蓑にした責任逃れを許さない闘いを全国で繰り広げよう!

 上述の厳しい状況がありながらも、近年の裁判で、作業現場の重傷事故や死亡事故に関して、被災労働者を直接指揮命令した(被災労働者と特別な社会的接触に入った)元請けや注文者の安全配慮義務違反が認定されています。また、3月30日の判決報告集会で齊藤弁護士が述べていますが、トンネル等の工事でじん肺になった労働者が元請けのゼネコンに損害賠償を求めた全国各地の事件では、ゼネコン側が責任を認めて和解金を支払っています。

私たちはこのかん、除染労働者の危険手当不払いに抗して数々闘ってきました。その中で、元請け前田建設らの責任を福島県労働委員会に申し立てて追及しました。その結果、下請け会社が3年間不払いのまま放置した危険手当を、前田建設らゼネコンに用意させ、除染労働者に手渡すことができました。元請けや注文者の責任逃れを許さない闘いを全国で繰り広げましょう!

 

東電と宇徳の救急医療体制の不備、不法行為責任の認定を求めて仙台高裁に控訴!

忠昭さんが亡くなった時に、宇徳の整備工場内には電話もなく、周りにいた誰もが携帯電話をもっていなかったためにER(救急救命室)での処置が遅れました。そのため原告側は、東電が適切な医療・救急救命体制を構築する責任を怠ったとして不法行為責任を問うていました。しかし、判決は忠昭さん死亡当時、東電は携帯電話の持ち込みを禁止していなかったことや「1日あたり40006000人の作業員全員に携帯を支給するためには相当な支出と管理が必要である」という理由で原告の請求を棄却したのです。ところが東電は、忠昭さんの亡くなった約半年後には約5000人の作業員全てにスマホを配備したのです。判決は東電の「配備する金がない」という主張を擁護し、配備した事実には無言です。事実認定の誤りが明らかです。

また、判決は「忠昭さんの診療に至るまでの時間にほとんど遅れがなかった」ごとく述べています。しかし、遅れがなかったという理由を説明していません。理由不備が明らかです。さらに判決は宇徳の責任については、ろくに検証していません。

 次に、東電の記者会見における労災否定発言については、「原告らが不快の念をいだいたとしても・・・不法行為を構成するとまではいえない」と判示して、賠償請求を認めませんでした。判決文が広報部員の発言の内の東電に有利になる箇所だけを拾い上げて作られたことを弾劾しなればなりません。

 

引き続き、控訴審へのご支援をお願い申し上げます!

 遺族はこのたび、東電と宇徳の救急医療体制の不備と不法行為責任の認定を求めて4月12日、仙台高裁に控訴しました。公正な判決を求めて裁判所での闘いが続きます。追及する会の皆様、及び全国の皆様のご理解とご支援をお願い申し上げます。


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