●齊藤正俊弁護士
発言の冒頭に齊藤弁護士は「私の座っている席の目の前に猪狩忠明さんの写真が置いてあり『弁護士、頑張れよ!』と言われているような気がしています。なんとしても負けられない訴訟であると考えています。訴訟の中で弁護団が頑張るというのはもちろんですが、裁判官に下手な判決を下させないという市民の強い監視の目。被告となっている会社に対して、解決に向けた誠実な態度を示せという幅広い運動が同時に必要です。」と発言され訴訟と並行して大衆運動の必要を説きながら、この2件の裁判の意義について語られました。
■未払賃金請求裁判について
いわきオールが忠明さんにほんのわずかな時間外賃金しか払っていないが、2年分の未払い時間外賃金を払えという訴訟。
朝の4時半から夕方6時過ぎまで働いていた。まともに時間外手当が払われていれば、かなりの額になるがいわきオールは払っていない。
猪狩さんはほとんどをサービス残業として働いていたことになる。正当な時間外手当を支払わせることで、様々なサービス残業を強いられて苦しんでいる方への励みになるはずだ。眠っているサービス残業を掘り起こす意義がある。
■損害賠償請求裁判について
『いわきオール/宇徳への安全配慮義務違反に対する損賠請求』
長時間労働によって忠昭さんは亡くなった。その責任はどこにあるのか。
労働者は労働力を提供するが、自分の命や健康まで会社に捧げるわけではない。忠昭さんだって死を賭けてまで長時間労働をするなんてことは考えてなかったはずだ。
いわきオールは長時間労働をさせたという意識があまりない。自分に立場を置き換えるような感覚がないと事業主はどんどん鈍感になる。もっと安全に、命に配慮する社会でなくてはならない。そのための訴訟でもある。
いわきオールだけでない。元請・宇徳も同様である。作業環境や装備がどういうものであったのか熟知している。作業環境や安全の配慮を怠ってきた。
忠昭さんの長時間労働によって死という最悪の結果を生んだ。その責任を明らかにすることで、これからの安全や健康に配慮させるという意義もある。
『東電/宇徳に対する賠償請求』
忠昭さんが倒れた時、ER(救急救命室)に連絡するすべがなかった。イチエフという環境の中で携帯が持ち込めない。万が一、異常をきたしたときにきちんと対応してくれるという期待があったはずだ。その期待がもろくも崩れ去った。毎日4000人もの方々が働いている。その方々が急病を発症した時に第二、第三の忠昭さんが出ないとも限らない。ERはきちんと機能してたのか。
忠昭さんの期待が裏切られた。期待権の侵害、それ以上にERの体制を正すことで労働環境を改善させるという意義を持つ。
『東電記者会見に対する賠償請求』
忠昭さんが急死された日、東電は記者会見をやっていた。遺族ですらまだはっきりとしたことが分かっていないのに「業務との因果関係はない」という東電の発言にショックを受けた。確固たる事実を知った上で会見をしなくてはならない。
現に労災が認められ、東電での作業を含めて因果関係があったことが明らかになった。いったいあの記者会見はなんだったのか。東電の作業員への思いの軽さがうかがえる。
そういったことを含めて、東電の責任を追及する裁判に勝利し、忠昭さんと遺族の無念を晴らし、イチエフの労働実態、社会に蔓延している長時間労働の怖さを訴えていき過労死を許さない社会を作っていくという意義を持つ。
●霜越優弁護士
霜越弁護士からは裁判の中身の説明をしていただきました。
『いわきオールの反論/認否について』
いわきオールは時間外労働はほとんど発生していないという主張をしている。「移動時間は勤務時間ではなく、8時からが勤務開始。夕方5時以降は仕事をしていたのではなく時間を潰していた」と主張している。朝4時半にいわきオールを出る忠昭さんが、なんで1時間もだらだらと時間を潰すのか、おそらく通用しない。
4時半にタイムカードを押して、その後納品や納車も行っていた。8時前は労働時間でないという主張は認められない。
また、いわきオールは夕方6時からなぜか10分程度の残業を認めている。1時間時間を潰して10分残業していたという主張は通用しないだろう。
『宇徳の反論/認否』
いわきオールと宇徳は偽装請負で実際には派遣であったが、宇徳はそれを否定している。安全配慮義務、時間管理、健康面等宇徳には一切責任がないという主張につながっていくのだろう。現時点で、宇徳は認否のみで詳しい主張は分からない。しかし、少なくとも宇徳は忠昭さんが早朝から移動を行っていたこと、いわきオールと原発との距離や広野の宇徳事務所に納品をしていたことはわかっている。にも関わらず、一切なんの責任がないとの認否の不合理さを今後の訴訟で追及していきたい。
『東電の反論/認否』
東電は認否以外に反論をしてきている。
携帯の持ち込みは禁止していない。ある程度ERに入るのに時間はかかったことは認めているが放射能汚染の確認のために必要な作業を行ったからであって連絡体制の問題はないと主張している。
記者会見についても記者の質問に誠実に回答したもので、社会通念上の限度を超える違法性はないと主張している。しかし、誠実に回答するなら死因を「業務との因果関係は不明である」と答えるべきだ。現に忠昭さんが亡くなったあとに別の作業員が亡くなった時の記者会見では死因と業務との因果関係について「不明」としている。
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左:齊藤弁護士 右:霜越弁護士 |
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